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第13回JEES教育セミナー in 札幌
「新学習指導要領 全面実施まであと1年!~授業・学級・学校づくり実践講座~」を開催しました

NPO法人全国初等教育研究会(JEES)は、第13回JEES教育セミナー in 札幌「新学習指導要領 全面実施まであと1年!~授業・学級・学校づくり実践講座~」を、2019年3月2日(土)に開催いたしました。

今回は、当セミナーの全国展開第2弾として、2月に開催した第12回JEES教育セミナーに引き続き、JEES理事・東北学院大学 佐藤正寿先生にご登壇いただいたほか、開催地札幌の先生方にもご登壇いただきました。内容も、全面実施を間近に控えた新学習指導要領のポイント解説に加え、具体的な授業づくりや基礎基本を身に付けるための学級・学校づくりの実践報告、そして「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指す模擬授業体験など、非常に充実したセミナーとなりました。

■講義
新学習指導要領のポイントと学力向上に向けた授業づくり
「新学習指導要領のポイントと学力向上について」
(JEES理事/東北学院大学文学部教育学科 教授 佐藤正寿先生)
 佐藤先生はまず文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)補足資料」を示され、予測困難な時代において、子どもたちが何をできるようになるか、そのために何を学ぶか、どのように学ぶかという観点で新学習指導要領が改訂されたことを押さえました。
 キーワードとなる「アクティブ・ラーニング」については、特定の指導方法を表す用語ではないことに留意すべきで、重要なのは主体的・対話的で深い学びからの学習過程の改善であると述べられました。アクティブ・ラーニングという言葉は「子どもたちが話し合い活動をしていればよい」などの誤解を受けやすい点に注意が必要で、例えば、学級の中は静かな状態でも、子どもが課題に向かって黙々と学習に取り組んでいるような、”脳がアクティブ”な状態になることが、アクティブ・ラーニングだと言えると解説されました。
 そして、新学習指導要領で育成を目指す“資質・能力の三つの柱(知識・技能/思考力・判断力・表現力等/学びに向かう力 人間性等)”を育成するためには、アクティブ・ラーニングの視点による授業改善と、カリキュラム・マネジメントの充実の2点が重要な方策であると述べられました。
 その後、「主体的・対話的で深い学び」の意味を一つ一つの言葉から次のように解説されました。

主体的な学び…
子どもたちが意欲を持ち、見通しをもってキャリア形成を意識して学習に取り組み、
次の学習に生かす、いわば、「自分の学びのコントロール」。
対話的な学び…
子ども同士の共同的な学びと捉えがちだがそれだけではなく、教師との会話、
地域の人との会話、先哲に学ぶなど、「異なる多様な他者からの学び」
深い学び…
見方・考え方を働かせながら、習得・活用・探究のプロセスに基づいて行われる学び。
 これらの学びは、基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、活用することが前提となることを踏まえ、次の実践報告へと繋げられました。
■学力の基礎基本を身に付ける、教材活用実践報告
(札幌市立屯田小学校 校長 新保元康 先生、教諭 中川宗 先生、佐々木真結子 先生、
札幌市立琴似中央小学校 校長 菅野光明 先生)
◎ +「働き方改革」も実現する学校の日常改善
 ~屯田小のトライアル インフラ整備+教科書+学校教材+ICTでみんな安心の学校づくり~
 (札幌市立屯田小学校 校長 新保元康 先生)
 佐藤先生の講義を受け、新保先生からは授業改善と合わせて働き方改革という視点からも取り組んでいる事例発表をいただきました。新保先生は校長として経営に携わってきた4校全てで、学校経営方針の1つに「安心して働ける学校」を掲げてこられたとのこと。新学習指導要領を実現するための前提として、教職員が安心して働ける環境が必須であると話されました。
 中央教育審議会から発表された「働き方改革」に関する答申では、教育の質の向上と、時間の削減・効率化どちらも大事であることが書かれており、「子供のためであればどんな長時間勤務も良しとするという働き方は(中略)その中で教師が疲弊していくのであれば、それは子どものためにはならない」という部分を紹介し、教師の働き方を「千手観音」に例えながらこれまでの問題の根深さを話されました。

※新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)(第213号) 平成31年1月25日 中央教育審議会


 また、これまで学校現場からできる働き方改革として、屯田小で取り組んできた次のような取り組みを紹介されました。

1)生活リズムを整えることで落ち着いた学校へ

2)自作教材至上主義からの脱却

3)「公開研究会」の実施を再考し、日常授業の改善を最優先

4)指導案の簡略化

5)「自分流」は共通のベースがあってこそ(学習規律の徹底など)

6)ICTはまず「常設・固定」

7)会議の精選、情報共有を最優先(校務支援システムの活用など)

8)ワーク・ライフバランス

◎「ICTと学校教材活用による日常授業の改善」
 (札幌市立屯田小学校 教諭 中川宗 先生)
 管理職である新保先生に続いて、中川先生からは、屯田小学校が今年度行ってきた様々な取り組みの中から、一例として「①研修の充実」「②ICTの日常的活用」などについて教諭(研修部)の立場から日常授業の改善に取り組む具体的な姿をお話しいただきました。

①研修の充実…
研修教科を絞りつつ、外部からのゲスト講師を招いた特別研修を充実させるなど、学校の実態に合わせ選択と集中による地に足を付けた研修を実施。全ては日常授業を良くするため、そしてそれが結果として落ち着いた学校づくりや、主体的・対話的で深い学びに繋がっていくというねらいがある。
②ICTの日常的活用…
ICTの活用は手段であり目的ではないことに留意し、ICT活用によって授業がより分かりやすくなるよう、ツールとして上手に活用することが大事である。また、全ての教室に同じレイアウトで常設されていることが重要であり、毎朝電源を入れておき、授業中スムーズに活用できる状態にしているのがポイント。
 中川先生は休み時間の間も実物投影機で学習のルールや時間割を映し、次の時間何をするのか等のメッセージを児童にさりげなく伝えるなどの工夫をしているとのこと。また、ICT活用はこういった学習規律・学習習慣づくりの場面において有効であると述べられ、そのうえで、ノートの書き方や思考ツールなど「学び方の獲得」をし、基礎基本を習得することが、発展的な学習に繋がっていくと解説されました。
 こういった活用法を校内の先生に定着させるためには春の研修が重要だと考え、JEESの「学校教材×ICT」活用研修事業に申し込み、校内研修を行ったこともご紹介いただきました。
◎「学力の基礎基本を身に付ける ママ先生もうれしい学校教材活用」
 (札幌市立屯田小学校 教諭 佐々木 真結子 先生)
 続いて、佐々木先生からは、ママ先生として、日々のライフサイクルを赤裸々に紹介いただきながら、限られた時間のなかで効率的に授業の改善に取り組む様子をお話しいただきました。
 教員としての勤務時間以外に、3人のお子さんを持つママとして、送迎や食事作り、宿題のチェック、寝かしつけなど家庭でも多忙な佐々木先生。屯田小学校で初めて、全学年共通で揃えた学校教材を使い、指導する教員も、取り組む子どもも負担が軽減されるという経験をしたとのこと。例えば、全校で漢字指導のやり方と教材を揃えていれば、教員も児童も、使い方・学び方が分かっているので抵抗なくスムーズに学習に入ることができます。指導の仕方も全学年の共通理解が図れるため、若手の先生をはじめ、教員が教え方に悩むことがなくなったそうです。また、従来自作プリントで出していた宿題を学校教材に置き換えることで、宿題づくりの労力と時間が削減されたということでした。
 これらの取組により時短ができたということが特にママ先生にとっては大変嬉しく、時間と心にゆとりができることで、本来力を入れたい授業準備に時間を使えるようになったと報告いただきました。
◎「学校教材とノート活用」
 (札幌市立琴似中央小学校 校長 菅野光明 先生)
 続いて、菅野先生から、①ノートの書き方は学習スキルであること、②きれいなノートは教師にとってもメリットがあること、③学校教材とノートで学びの質を高める という3点について琴似中央小学校での実践報告を頂きました。実際に児童のノートを提示しつつ、学校全体でノート指導が徹底できていないと、筆算の補助数字の書く位置や大きさなどが揃わず、さらには採点基準のブレにもつながってしまうと解説されました。
 スキルであるノートの書き方はきちんと教えて身に付けさせるものだと話される菅野先生ですが、ノート指導の必要性を感じていても、時間が取れず取り組むのが難しいという学校の現状を踏まえ、どう簡単に指導するかを考えてこられたとのこと。
 琴似中央小学校では、ドリル教材と、ドリルノートを併用することで、問題番号と問題の位置関係、位の揃え方、問題と問題の間隔の開け方などが、問題を繰り返し解きながら身につけられています。ノートがきれいだと、例えば計算のどこでつまずいたのか、教師も見つけやすいという効果があり、それは指導の効率化・時短にもつながります。また、指導されたとおりにきちんとノートを書けるスキルを身に付けた子どもは、自由に書いてごらんと指示したときに、自由にも書くことができるという例を示されました。
 お話の後、新保先生との対話の中で、定型的なノート指導は教師の指導方法や児童の発想を縛るものではなく、あらかじめ決まりがあれば、児童がそこに気を遣うことなく次の活動にスムーズに進むことができるのだというメリットを強調されていました。
■体験: 教材を活用した基礎基本習得のコツ
(JEES教材活用支援員 磯﨑ひろみ)
 続いて、JEES事務局・教材活用支援員の磯崎より、JEES研修事業のご紹介後、その一部を参加の皆様に体験いただきました。内容としては、札幌の先生方のご発表にもあったドリル教材について、「くりかえしドリル」と「書き込み式ドリル」それぞれの特徴や、ノートと組み合わせた使い方について紹介したほか、学校教材が学習規律/学習習慣作りや基礎基本の習得等に役立つ場面が多いことを、実際の新出漢字指導の指導例を動画で紹介しながら解説しました。また、紙のドリルを実物投影機で映すような一斉指導の方法に加え、ドリルに付属するデジタルコンテンツの活用例も紹介しました。

■講話: 基礎・基本を育て、主体的・対話的で深い学びの実現を目指す授業
 模擬授業: 小学校6年生社会科「東京オリンピック」

(JEES理事/東北学院大学文学部教育学科 教授 佐藤正寿先生)
 ここで佐藤先生が再度登壇され、講話と模擬授業を展開されました。まず、「基礎・基本を育て、主体的・対話的で深い学びの実現を目指す授業」として4つのポイントをお話されました。
1)問いを見つける教師のしかけ
 問題解決的な学習を行う際、子どもたちに学習の見通しを持たせられるような導入がポイントであり、問いを把握し、予想し、学習計画を立てることを丁寧に扱うことで、子どもによる問題解決の見通しにつながると述べられました。ただし、導入には時間を割きすぎないように留意し、1年間を振り返ったときに、年度末の3月に導入の時間がどれだけ短くなっているかによって学習の成果がわかると添えられました。
2)問題解決の過程を大切にする
 では、導入の後どのような学習を進めればよいか。佐藤先生は文部科学省『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』の図「探究的な学習における児童の学習の姿」を示し、図に示された「課題の設定」、「情報の収集」、「整理・分析」、「まとめ・表現」の過程を踏まえているかどうかが、主体的・対話的で深い学びの実現に重要であると述べられました。
3)見方・考え方を働かせる発問
 ここでは2月のセミナーでも紹介された「バスのタイヤの数はいくつですか」という発問(有田和正氏によるもの)や、齋藤茂吉の短歌を見せてどのような発問をするかなど、参加者にも意見を聞きながら説明をされました。
 その中で発問には拡散的発問(学習課題の明瞭な把握や授業の発展への布石となる)、対置的発問(具体的な思考活動を誘発する)、収斂的発問(授業のスムーズな進展のために理解度を確認する)、示唆的発問(授業の停滞から脱出する)というような分類(沼野一男ほか編『教育の方法と技術』玉川大学出版部より)があり、佐藤先生は担任時代、これを参考に、主に社会で「基本発問」「中心発問」「ゆさぶり発問」の3種類を展開していたとのこと。このように、研究者による知見を活かした実践をすることの重要性を実際の発問例も交えて説明されました。
4)基盤は学級経営
 講話の最後に、ヒドゥンカリキュラム(教師が無意識のうちに教え続けてしまっている教育内容)の重要性についても触れられました。
 ヒドゥンカリキュラムにはプラスとマイナスそれぞれの面があり、マイナスとなる一例として、散らかったままの上靴を放置していると、子どもは「それでいいんだ」と思ってしまうことや、いい加減な時間予告をすることで先生の指示した時間を守らなくなることなどを挙げられました。子どもたちは良い面も悪い面も教師から学んでいることを常に意識しなければいけない」、と講話を結ばれました。

 講話の後は、引き続き佐藤先生による模擬授業が行われました。内容は、過去のセミナーでも好評だった「東京オリンピック」。オリンピックが開催されやすい国について資料から考え、東京オリンピックが開かれた時代の状況を理解するというねらいを想定して行われました。
 「オリンピックについて知っていることは」「どのような国々で開催されたのか」「世界地図を見て気づいたことは」などの発問について、ノートに書く、周りの人と話し合う、発表するなどの活動が次々と展開され、授業はテンポよく進行しました。参加者は講義で触れられていた教師の仕掛けや、見方・考え方を働かせる発問、そして最後のゆさぶり発問等について、実際に児童の立場で体験しました。

■まとめのディスカッション
(JEES理事/東北学院大学文学部教育学科 教授 佐藤正寿先生、札幌市立屯田小学校 校長 新保元康 先生)
 最後のプログラムは、新保先生の司会による、参加者を交えたまとめのディスカッションタイムとなりました。まず参加者同士で今日のセミナーの感想を話し合い、次のような話題が共有されました。

・春休みからの1年間の仕事の始め方の工夫

・学習規律だけでなく、生活ルールについても学校で統一することのメリット


 最後に、佐藤先生から本日のセミナーの目的である「若手教師を応援する」ということを押さえたうえで、3つのメッセージを頂きました。

①本日多くの参加を頂いたベテランの先生には、若手の先生に自分の立場で何を支援できるかという視点で今日のセミナーを振り返り、ぜひ明日から実践して頂きたい。

②セミナーを通して疑問が出た方もいると思うが、課題意識を生じさせることはセミナーの目的のひとつでもある。学びたいことや課題が生じるのがいいセミナーだと思う。ぜひその課題意識を元に学び続けて頂きたい。

③遠方からわざわざ参加している先生方の姿勢に学び、ぜひ自分に投資して、積極的に学びに出かけるようにして頂きたい。

■参加された方々の感想(抜粋)

  1. 新しい学習指導要領に移行するにあたって、どのようなことが変わるのか、それにどう対応していけば良いのか大変参考になりました。
  2. 「理論と実践」「体験」のプログラムで充実した時間でした。
  3. 授業論としても、働き方としても、まさに「見方・考え方」にかかわるセミナーだったと思います。
  4. 明日からできる、自分の学校でもできる、ちょっとがんばればできる内容が多かったです。
  5. 今日の内容が、日々の実践にすぐ使えることが一番良かったです。若い先生にもどんどん伝えていきたいです。
  6. 見通しの持たせ方から発問の選定までたくさんのことを学ばせて頂きました。
  7. 刺激になりました。学校全体で揃えるベース、働き方について色々考えることができた時間になりました。
  8. 若手教師に限らず、一般化やルールを明確にすることはとても大切だと思いました。また、ノートへの書き込み、学び直しも大切だと思いました。
  9. 全国各地より学校関係者が参集し、学ぶ気持ちの強い方々に触れることができたのは大変刺激的であり、勉強になりました。ありがとうございました。
○開催日時:2019年3月2日(土)13:00~(受付12:30~)
○開催場所:北海道大学 地球環境科学研究院 D101講義室
○定員  :60名
○参加費 :無料
○主催  :特定非営利活動法人 全国初等教育研究会(JEES)
○後援  :文部科学省、北海道教育委員会、札幌市教育委員会
○協力  :株式会社 教育同人社

http://jees.jp/activity/detail/2019/0302.html