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教育イベント事業 開催レポート

『生涯学び続けるための「主体的・対話的で深い学び」とICT活用』を開催しました




 NPO法人全国初等教育研究会(JEES)は、第10回JEES教育セミナー『生涯学び続けるための「主体的・対話的で深い学び」とICT活用』を、2018年2月24日に開催いたしました。

 今回は、フリーマガジン『wutan』2017年3学期号の巻頭特集でご対談いただいた東京学芸大学 高橋純先生と、常葉大学 佐藤和紀先生のお二人にご登壇いただき、新学習指導要領の重要なキーワードのひとつである「主体的・対話的で深い学び」とICT活用について、理論と実践を交えての具体的なお話をいただきました。



■実践報告(佐藤和紀先生)
『主体的・対話的で深い学び』を実現するためのICT活用


 まず、昨年度まで東京都公立小学校で教員をされていた佐藤和紀先生からは、「ICTを活用して『主体的・対話的で深い学び』に向かうために、最初に子どもたちに身につけさせるのは“基本的なICT技能”。ふだんの授業で鉛筆の使い方を聞かないのと同様で、この技能が身についていなければ『深い学び』になることはないだろう」との見解が示されました。そのうえで、日本の子どもたちが弱いとされる“情報の整理・分析”を鍛えるための活動として、教員時代に実践された高学年での事例が紹介されました。

 タブレット端末で旅行雑誌を作成する実践では、「ここで重要なのは“情報の収集”と“整理・分析”。インターネットや書籍など様々あるメディアの特性を、情報収集前に教えておくことが必要。どのような違いがあり、なぜそれを使うのかだけでなく、例えば電話を使う際の作法や聞き出し方といった細かい技能についても、事前にしっかり伝えておく必要がある」と述べられました。

 このほか、タブレット端末で意見文を書く実践では、「タブレット端末を使用することで、すばやく意見文が書ける。ここで重要なのはきれいに書くという副次的な目標ではなく、すばやくグラフを読みとり、その情報を“整理・分析”し、それを意見文としてわかりやすく“まとめ・表現”できるという目標を達成すること」と話されました。

 また、新学習指導要領では学習の基盤になるものとして「情報活用能力」が示されたことに触れ、「情報活用能力を伸ばしていくためには、ICTを活用した学習活動などを充実させ、情報手段の基本的な技能習得を“段階的に”やっていく必要がある」と述べられました。


■講演(高橋純先生)
ここから始める『主体的・対話的で深い学び』


 高橋先生からは、日本の子どもたちがICTを活用した問題解決能力に課題があることを示す調査結果の提示と、その解説がありました。その後、「生涯学び続けるために重要なのは“ルーティーン化”。毎時間同じことを同じようにするというルールを、気づいたらやっていることが大切。手順が定型化されていると学習内容に集中できる」と語られました。

 続いて、どのようにルーティーン化するかについては英語を例に挙げ、「スムーズに英語を話せるようになるためには何をすればよいかを“分割”して考え、分割したものを簡単な順番にする。それをルーティーン化し、慣れてきたら内容を上げていく。この“分割→繰り返す→だんだん難しく”という学び方についての、意図的・計画的な学習指導が必要である」と述べられました。

 『主体的・対話的で深い学び』について高橋先生は「わかる、できるのレベルを上げていこうと思ったら『主体的・対話的で深い学び』にならざるを得ない、と考えるほうが自然であると思う」と話されました。
「新しい知識を教えるだけでなく、既習事項とつなげて理解させることで“わかる”のレベルを上げていく。最初はしっかり教えるために教師がICTを活用し、さらに“わかる”のレベルを上げるために、子どもたちがICTを使ったり言語活動をしたりする。これをスムーズに進めるためには、学習規律や基礎基本が徹底されていなければ」と述べられました。


■ワークショップ(佐藤和紀先生)
生涯学び続けるために必要な「情報活用スキル」の指導


 続くワークショップでは、毎時間5~10分繰り返すことで情報活用スキルをぐんと鍛えられるような、手軽な学習方法を体験しました。

 映像を視聴したのちに事実のみを書き出し文章にまとめる演習では、「視聴中にメモをとり、その後事実のみを100字にまとめることで、正確に情報を読み取る癖がつく」と教えてくださいました。

 また、子どもたちは目的に沿ったグラフの選択ができないことも多いため、「様々なグラフの読みとり方や、目的別に(円グラフ・棒グラフ等の)グラフのタイプを選択することを教えておく必要がある」とし、グラフを読みとりその情報を文章にまとめる演習を行ないました。
ほかにも、4パターンのスライド(プレゼンテーション)を比較して良いものを話し合う演習など、計4つを参加者全員が体験しました。

 演習後に佐藤先生は、「今回紹介した学習活動を繰り返すことで、情報をわかりやすくまとめるスキルが身についていく。これはこの先、タブレット端末を活用する際に『深い学び』につながっていく、下支えの実践となるもの」と語られました。


■講演(高橋純先生)
生涯学び続けるために必要な「学び方」の指導


 高橋先生は、「“点”で孤立した知識を、“線”で結びネットワーク化すれば“質の高い知識”となるが、その“線”をどうやってつくっていくかが課題」とし、“線”を結ぶ活動を毎日やろうとする場合、まずは『しっかり教える』『つなげて考えさせる』『集中させる』ことが必要であると述べられました。ここで、『つなげて考えさせる』ためにやるべきこととして3つのポイントを挙げられました。

 1つ目の“習得段階における「言語活動」の導入”では、「知識を習得したのちにそれらを説明するという“言語活動”をすることで、知識を習得したときよりも少し質の高い知識がつく。このような言語活動を毎回する場合は、調べれば答えがわかるタイプの知識を自分の言葉で説明させるような内容から始めていくのが良いだろう」と話されました。

 2つ目の“汎用的な『見方・考え方』として「比較」の導入”では、まず『見方・考え方』そのものものの説明として,「新学習指導要領にある各教科の『見方・考え方』は何に役立つか。例えば“大根とジャコのシャキシャキサラダ”の特徴を、国語科的な『見方・考え方』を働かせてみたとき、“食感をシャキシャキで表している”といえるし、社会科的にみると“産地が違う”ともいえる。このように特徴をたくさん出せるようになる」と述べられました。
そのうえで、汎用的な『見方・考え方』として「ここに“比較”を加えるとどうか。“比べる”とは、違うことを見つけるだけでなく、同じことや、似たことを見つけるということでもある。“分類する”も“関連づける”も“比較することから”生まれるため、何かあったら比べてみるのが『見方・考え方』の単純な考え方ではないか」とまず「比較」を活用する重要性を語られました。

 3つ目の“思考過程のルーティーン化の導入”では、「課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現という“探究の過程”のステップを、大人が教科でも日常でも活用することが大事。例えば車を買いたいとき、車の情報収集、欲しい機能など情報の整理・分析、こんな車が欲しいといったまとめ・表現、というように思考過程をルーティーン化し、日常でもどんどん活用してほしい」と述べられました。

 最後に高橋先生は、ICTの活用場面について、「図や表を使う“整理・分析”や“まとめ・表現”など、探究の過程のひとつひとつの質を上げるところでICTが生きてくる」としましたが、「日本の教育がこれまで大切にしてきた学習規律、ドリル学習といった基礎基本をふまえたうえで、今回述べたような新しい挑戦をしてほしい」と、学習規律や基礎基本の重要性に触れ、講演を締めくくりました。

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 閉会後に寄せられたアンケートでは、高橋先生の理論、佐藤先生の実践という展開が大変わかりやすかったという声が多く聞かれ、充実したセミナーであったことが伺えました。


■参加された方々の感想


  • ・ICTが苦手な者でも、ICTそのものというより、授業の過程、どのように積み上げていくのかを学ぶことができてよかったです。
  • ・やはりICTの活用には基礎基本が大事。ICT機器は魔法の機械ではない。教師の見方・考え方が大切だということがよくわかりました。
  • ・お二人の講演やワークショップを通して、月曜日からの実践、来年度の実践を考えるとともに、今までの自分の実践について振り返ることができました。
  • ・ただ単に“情報の活用”というのではなくて、ふだんの小さい時間で、子どもたちにどのような力を育成しなければならないのか。また、そういった力をつける具体的な実践やヒントもありました。明日から活用できる内容で良かったと思います。
  • ・高橋先生の理論と、佐藤先生の実践とがかみ合っているのでとてもわかりやすく、すぐにも試行したくなりました。ワークショップと講話とが、クロスしていく展開もよかったです。すごく参考になりました。


○開催日時:2018年2月24日(土)13:30~(受付13:00~)
○開催場所:株式会社 教育同人社 会議室
○定員  :40名
○参加費 :無料
○主催  :特定非営利活動法人 全国初等教育研究会
○協力  :株式会社 教育同人社
http://jees.jp/activity/detail/2018/0224.html